白土わか先生の還浄

大谷大学の白土わか先生が亡くなられた。先日届いた大谷大学の機関誌『無藎燈』に先年の11月に96歳でお浄土に還られたことが記されていた。谷大では書ける人がいなかったのか、佛教大学の松田先生がその追悼文を書かれていた。

私が谷大の仏教学に入った頃には、すでに白土先生は講師職も辞されており、伝説の先生としてよくお話を聞いた。

10年ほど前だったか、修士に在籍していた頃、親しく教えてくださった加治洋一先生からお誘いがあり、一人暮らしの白土先生のご自宅に大掃除という名目でおじゃましたことがあった。見た目は小柄な品の良いおばあさんであったが、家中のいたるところに本が積んであり、書斎は天井まで辞書やら論文集が積まれていた。今ではコピー本しか見ることのない希少本も数多くあり、何か譲ってもらえないだろうかと淡い期待をもっていたが、当時すでに80歳を過ぎていた先生は、手放す気は全くないようで、むしろ興味をもっている論文について加治先生と話をされていたほどであった。ひとかどの学者というのは、これだけの熱情をもっているのかと尊敬の念をおぼえた。

白土先生はもともとは日本文学を志しておられたが、平安や鎌倉の文学を研究するためには、仏教の知識がなくてはならないと決心し、大谷大学の山口益先生に教えをこわれたとお聞きしている。女性というだけで、谷大ではいらぬ苦労をたいへんされたともお聞きしているが、それでも一郷正道先生や小川一乗先生を君付けする様は、さすがと驚いた。

白土わか講義集 2012年 大蔵出版
白土わか講義集
2012年 大蔵出版

先生とお会いしたのはその一度きりになったが、後に加治先生から、白土先生の講義集を作るので手伝ってくれといわれ、先生の講義のいくつかを読む機会があった。そこには『阿弥陀経』や『法華経』などの経典が、いかに日本文学に影響を与え、また影響を受けて日本独自の仏教が成熟していったのかが講義されていた。「白土学」とでも呼ぶべき、その独自な仏教教理史がそこには展開されていた。もちろん法然上人や親鸞聖人のことにも触れられており、新鮮かつ刺激的な視点がとてもおもしく、直接講義が受ける機会がなかったのが、とても悔やまれた。

白土先生にはそういう意味で、憧れの思いが今もある。